読書メモ:Hong (2025)
要約
イントロダクション
ジェンダーや人種、エスニシティといった社会的に構築されたアイデンティティにもとづいて分断が生じる理由を明らかにすることは、社会ネットワーク研究が長く取り組んできた研究課題である。
社会カテゴリは社会科学者が容易にアクセスしやすく、カテゴリにもとづく差異は不平等の基幹である。しかし、「カテゴリのメンバーシップからカテゴリの手がかりcueへ」(Monk 2022, 20)という提案にあるように、カテゴリの手がかりがどのようにネットワークを形成するのかを研究することは重要である。
本研究では、社会カテゴリの手がかりとアイデンティティ・パフォーマンスの具体例として「カテゴリ一貫性categorical conformity」に着目し、それがどのように社会ネットワークを形成するのかを検証する。具体的には、Add Healthを用いて、友人関係におけるジェンダーによる同類結合gender homophilyについて研究する。方法として、社会調査にもとづいてカテゴリ一貫性を測定する「文化の定式的分析」とカテゴリ一貫性とほかの要因を峻別する指数ランダムグラフモデル(ERGMs)を用いる。
本研究の貢献は、Monk (2022) の不平等の下部カテゴリモデル(後述)を実証し、ひいては文化的な実践やパターンが社会的ネットワークを形成すると論じる「文化的マッチング」の研究に貢献する。
同類結合、カテゴリ、文化的マッチング
類似した性質にもとづいて社会的ネットワークが形成されることを「同類結合」と呼ぶ。同類結合には外的要因を共有することで生成される「誘発的同類結合」と、個々人の選好にもとづいて生成される「選択的同類結合」がある。類似した性質としてもっとも基本的なものが人種やジェンダーといったカテゴリである。先行研究はカテゴリとアイデンティティを同一視してきたが、人々がカテゴリを取り巻く規範的期待に沿うかたちでアイデンティティを形成しているとはかぎらない。
アイデンティティを取り巻く文化的意味は、しばしばネットワークや相互作用の形成に役割を果たしている。先行研究は「文化的マッチング」として行動的・態度的な特性(e.g., 音楽や反移民感情)の共有が同類結合をもたらすことを検証してきた。文化的マッチングの研究からは、文化が社会カテゴリを超えて同類結合の形成に寄与が明らかになった。
社会ネットワーク分析における不平等の下部カテゴリモデル
Monk (2022) は「不平等の基礎モデル」と「不平等の下部カテゴリモデル」を提案した。伝統的なモデルである「不平等の基礎モデル」はカテゴリにもとづいた区別の制度化を強調する。これにたいして「不平等の下部カテゴリモデル」は「カテゴリのメンバーシップ(所属)からカテゴリの手がかり、サブカテゴリ、知覚された典型性への移行を通じて、差異を分解する」 (Monk 2022, 3)。
カテゴリの手がかりを定量化するには、3つのアプローチがある。第一に、連続的な指標の作成である(例、「私は家族の出身国であるドイツに強い愛着を持っている」:とてもそう思う…そう思わない)。第二に、知覚された典型性からの距離である(例、肌の色)。第三に、アイデンティティ・パフォーマンスである(例、doing gender:高校で非競争的で体が弱く、女子にマウントを取りたがらない男子は孤立する)。
ジェンダー・パフォーマンスは日々の交流から評価されるためしばしば質的に検証されてきたが、本研究ではジェンダー・パフォーマンスにかんする自己報告の態度や行動を用いる。
機械学習にもとづくジェンダー一貫性
教師あり機械学習は帰納的にデータにラベル付けをし、分類をする点で、自己報告の態度や行動からジェンダー一貫性を評価することを可能にする。この際に理論的・方法論的論点が生じる。
第一の論点はジェンダーのいかなる側面を機械学習が測定するのか、という問題である。機械学習は「存在論的ではなく関係的な思考マシン」である。したがって、ジェンダーそれ自体というよりも、ジェンダーと関連した規範的期待に個々人がしたがう程度を測定する。だからこそ、本研究が測定を試みるジェンダー一貫性を測定するうえで機械学習が役にたつ。第二の論点は機械学習がいかなるアウトカムを取り扱うべきか、という点にある。機械学習は社会カテゴリとしてのジェンダーから出発し、その整合性を検証すると同時に、その潜在的な偶有性や薄弱さを予測確率として示す。しばしば機械学習では誤分類(例、男性なのに女性とカテゴライズする)はエラー/誤りとして取り扱われてきたが、むしろこのズレこそが社会的に構築されたカテゴリにたいする偶有性と交渉可能性を反映している。
機械学習にもとづくジェンダー一貫性の分析は、差異を名目的/離散的ではなく連続的で異質なものとみなす点で、Monkの不平等の下部カテゴリモデルとも整合的である。具体的な訓練と評価の手続きを述べる。はじめに、回答者の性別をアウトプット、調査票への回答をインプットとして、ハイパーパラメータのチューニング(例、多重代入法の代入回数の変更)やAUC(area under the receiver operating characteristic curve)による評価を行い、良い分類器を得る。そして、予測段階では別サンプルにたいする予測確率を得る。訓練段階で重要な決定が、適切な調査項目の選定である。本研究ではすべての設問項目を入れる代わりに、21個のジェンダー化された行動的・態度的変数を投入する。その後、提示されたジェンダー一貫性変数を青年期の友人関係に適用し、同類結合に対する包括的な知見を得る。
データと方法
Add Health in-home survey wave 1(1994-1995)
- grades 7-12の生徒(日本における中高生に相当)
時代はいささか古いが、Add Healthはジェンダー・パフォーマンスを測定している数少ないデータのひとつである。1990年代のジェンダー・パフォーマンスの程度は近年よりも保守的と考えられるため、本データでもジェンダー・パフォーマンスのばらつきを観察できれば、近年のデータでもより大きなばらつきが得られる。
ジェンダー・パフォーマンス分類器
訓練には特徴量の重要性をその方向とともに示すために重回帰分析を、感度分析として決定木とサポートベクターマシンをそれぞれ用いた。
友人ネットワークの測定
ネームジェネレータ(名簿から男女それぞれ5人の友人を選択する)を用いた。どちらか一方が友人として報告されたときに友人関係があるとみなした。
変数
アウトプット:ダイアドレベルでの紐帯の有無
インプット:ジェンダー一貫性。0から1の連続値で、値が高いほど「男性典型的」。
- ジェンダー一貫性の類似度:ダイアドのジェンダー一貫性の類似度。正の値が類似度の高さを示す。
コントロール:自己報告の性別、年齢、親の学歴。1人種は含めない。ダイアドの共通した課外活動。そのほか高次のネットワーク文脈的効果と内生的ネットワーク効果。具体的には、友人の歪み(friendship skew, 紐帯が特定の生徒に偏っている状態)、開放的トライアド(open triad, a-b、b-cの紐帯があり、a-cの紐帯がない状態)、閉鎖的トライアド(closed triad, a-b、b-c、a-cの紐帯がある状態)。
分析手法
ERGMs(指数ランダムグラフモデル)を用いる。ERGMsはロジットモデルの一種である。Equation 1 は共変量\(X\)が与えられたとき、特定のネットワーク構造\(y\)が観測される確率は、その構造が持つ特定の統計量\(g(y)\)(例、エッジの数やトライアドの数)と、それらの統計量に対する効果の大きさを示すパラメータ\(\theta\)(回帰係数のようなもの)によって決まる指数関数的な項を、すべての可能なネットワーク構造にわたる同様の項の総和\(k(\theta)\)(\(k(= \sum_{y' \in \mathcal{Y}} \exp(\theta' g(y'))\))で割ったものを示す。ERGMsの推定にはMaximum Bias-corrected Pseudo-Likelihood Estimation(MBLE)を用いる。
\[ P(Y = y \mid X) = \frac{\exp(\theta^{\prime} g(y))}{k(\theta)} \tag{1}\]
結果
泣く頻度(女性典型的)、身体を動かすスポーツおよびビデオゲームをする程度(男性典型的)がもっとも重要度が高く、体重の自己認識および身体的喧嘩が次いで関連が高い。
基本的にジェンダー・カテゴリごとにジェンダー一貫性は歪んでいるが、少なくない割合がジェンダー・カテゴリからは非典型的なジェンダー一貫性を報告している。
ジェンダー一貫性の観点からも同類結合が起きていそうだ。
ジェンダー一貫性が一分位点(五分位)上がると、1.22倍(\(e^{0.20}\))同類結合しやすい。
議論と結論
一義には、類似したジェンダー一貫性を持っていることが、ジェンダー・カテゴリやそのほかの要因とは独立して同類結合をもたらすことが示された。
本研究の理論的貢献は、「文化的マッチング」の議論にたいして、文化がネットワークからの生産物というだけでなく、紐帯形成の触媒にもなることを示し、Monk (2022) が論じた社会カテゴリの手がかりと文化的マッチングの関係を実証したことである。本研究の結果は、人種やセクシュアリティ、階級といったカテゴリをめぐるアイデンティティにもあてはまる可能性がある。
文化の定式的分析という見地からも、機械学習をアイデンティティの測定に応用できることを予測確率の算出を通じて示した。ジェンダーの測定という見地においても重要な貢献がある。ジェンダーを連続的に捉えようとした研究にたいして、本研究は機械学習を応用することで、より柔軟にジェンダー一貫性を捉える枠組みを提案した。階層研究者にたいしては、集団間の境界を形成する「カテゴリの手がかり」、具体的には自己アイデンティティ、知覚された典型性、カテゴリの一貫性が社会関係の形成を通じて、不平等の悪化/緩和に寄与することを明らかにすることで貢献した。
限界
AUCがそんなに高くないかも、外的妥当性に疑義があるかも
ジェンダー一貫性の構成要素やその重要性は時間によって変化するかもしれない
- 近年ほどビデオゲームが「男性的」ではなくなっているかもしれない
References
Footnotes
ダイアドレベルの類似性か個人レベルの特性かは不明。↩︎