読書メモ:Klein et al. (2025)
要約
Introduction
資産不平等における経済的要因は検証されてきたものの、人口学的要因については十分に検証されてこなかった:具体的には、年齢、学歴、移動、婚姻状態、女性の労働市場への参入など。
本研究では、世代間異動が生じうる子どものいる世帯の資産不平等を検証する。もし家族の資産が二極化していたら、子世代の資産格差も大きくなるだろう。本研究では①ほかのタイプの世帯と比較して、子どものいる世帯の資産不平等は1988年から2017年の間でどのように変化したのか、②人口学的変化は子どものいる世帯の不平等にどのような影響を与えたのか、をそれぞれ検証する。
ドイツの文脈を取り扱う。ドイツは奨学金や住宅市場において米国と大きく異なっている。とくに、ドイツでは子どものいる世帯への支援が手厚く、また資産不平等は安定的に推移している。
SOEPとwealth moduleとの統合データの分析の結果、ドイツの純資産の比較的安定的な傾向の背後には、高齢者のいる世帯の資産不平等の減少と子なし世帯と子あり世帯の安定的な推移があったことが明らかになった。分解分析の結果から、移動率の増加と婚姻状態の変化が資産格差の拡大に寄与したものの、人口高齢化、教育拡大、女性の労働市場への参入がそれぞれ資産不平等の縮小に寄与し、オフセットされていることが明らかになった。
背景
資産不平等は所得不平等よりも一般的にたかく、ドイツはとくに高い(純資産のジニは0.75、税引後の世帯等価可処分所得は0.29)。
そして、資産不平等の大きさは子どものいる世帯でより顕著と考えられる。なぜなら、子どものいる世帯は人口学的に多様で、近年不平等が拡大している勤労所得からの資産への流入が多く、奨学金などの負債が比較的少ないため。
にもかかわらず、子どものいる世帯の資産不平等のトレンドは米国を除いて知見が少ない。ドイツではuniversal child benefitsやsubsidized child-care、paid parental leave benefitsなどの子育て支援や、持ち家のtargeted loansや自由主義的でない抵当権市場、低い持ち家取得率、奨学金の重要性の低さといった点で米国と異なる。
ドイツの人口学的変化について。ドイツでは若年層の減少、高齢化、移民の増加、同棲や単身世帯など「非標準的」世帯の増加、大卒比率の増加。若年層の割合が21.7%から18.4%に減少し、高齢化率が14.9%から21.8%に上昇した。子どものいる世帯の母親の年齢も1990年の27.6歳から2019年の31.2歳に上昇している。移民の割合も増加している。2005年から2019年にかけて、第一世代移民の割合は12.9%から16.8%に、第二世代移民は5.3%から9.6%にそれぞれ上昇している。
人口学的変化と資産不平等との関連
理論的には、人口学的変化は資産を蓄積しうる集団のサイズを変容させ、結果的に資産不平等にも寄与する。
高齢化は若年層の減少として低資産世帯のサイズの減少に寄与するかもしれないし、高齢者世帯の増加として低資産世帯の増加に寄与するかもしれない(cf. 引退、長期ケア)。ただし、リバースモゲージの使用が限定的なドイツにおいては、持ち家率の高い高齢者の資産は低くないと思われる。
移民率の増加と婚姻状態の変容は資産分布の低い方を増加させ、資産不平等を拡大させることが想定される。高学歴化は職業的地位の向上と金融リテラシーの上昇の結果、資産分布を引き上げ、結果的に平等化につながる。女性の労働市場への参入は配偶者の収入の上昇として、資産分布の引き上げにつながる。ただし、それが子育てコストにつながるような場合は、上述の想定に繋がらない。
データと分析戦略
データ:German Socio-Economic Panel (SOEP, version 38.1)
サンプル:同性カップル、多世代世帯(親の資産と祖父母の資産を区別できないため)を除いた45163世帯。
3種類の世帯に分類:18歳未満の子がいる世帯
64歳以上の世帯員と18歳未満の子どもがいない世帯
64歳以上の世帯員も18歳未満の子もいない現役世帯
資産の測定:世帯の等可処分純資産、住宅資産、不動産、事業、金融資産、保険、負債。すべて位(下位)0.1%をそれらを除いた最大値(最小値)に置き換えたのち計算。
要因分解の測定:基本的に夫婦レベルの情報を用いる
学歴:もっとも高い学歴
移民:非移民、第一世代、第二世代
婚姻状態:既婚、同棲
妻の就労状態:フルタイム、パートタイム、無業
年齢:世帯主の年齢(10歳刻み)
無回答はカテゴリとして入れ込む
分析戦略:Recentered Influence Function(RIF)回帰による要因分解
\[\begin{align} \Delta G & = \text{E} \left[ RIF(w, G, F) \mid t = 1 \right] - \text{E} \left[ RIF(w, G, F) \mid t = 0 \right]\\ &= \left( \bar{X^{\prime}_1} - \bar{X^{\prime}_0} \right) \hat{\beta_1} + \bar{X^{\prime}_0} \left( \hat{\beta_1} - \hat{\beta_0}\right) \end{align}\]
Notation(生成AI)
\(\Delta G\): 観測された富の不平等性の変化。ジニ係数(Gini coefficient)によって測定されています。
\(E[\cdot]\): 期待値(Expected value)。
\(RIF(w, G, F)\): 修正された影響関数(Recentered Influence Function)。ジニ係数 \(G\) のRIFであり、富 \(w\) の分布 \(F\) におけるRIFを指します。RIFは、統計量(ここではジニ係数)が、ある特定のデータポイント(富 \(w\))の変化によってどれだけ影響を受けるかを示すものです。
\(w\): 富(wealth)。
\(G\): ジニ係数(Gini coefficient)。富の不平等性を測定する指標。
\(F\): 富の分布(Distribution of wealth)。
\(t\): 時間(Time)。\(t=0\) は初期の期間(1988年)、\(t=1\) は後の期間(2002年、2007年、2012年、または2017年)を表します。
\(X\): 共変量(Covariates)のベクトル。関心のある人口統計学的変化を表す変数(例:年齢、教育、人種など)が含まれます。
\(\bar{X}'_t\): 時点 \(t\) における共変量ベクトルの平均値。
\(\hat{\beta}_t\): 時点 \(t\) で推定された、共変量とRIFの関係を示す回帰係数のベクトル。
\(\left( \bar{X^{\prime}_1} - \bar{X^{\prime}_0} \right) \hat{\beta_1}\)が構成効果、\(\bar{X^{\prime}_0} \left( \hat{\beta_1} - \hat{\beta_0}\right)\)が係数効果。
結果
全体的には1988年から横ばい傾向であるものの、子どものいる世帯のジニ係数は1988年から2002年にかけて増加し、それ以降微減という傾向にある。いずれも外れ値や等可処分の操作化には頑健。
- 高齢者のいる世帯がもっとも減少している。
子どものいる世帯の不平等の減少は資産額の増加が原因ではなさそうだ。
- しかし、高齢者のいる世帯ではそうかもしれない。
全体的なジニ係数の減少は構成の変化によってもたらされているけれども、子どものいる世帯は1988年と比較すると停滞傾向であり、その停滞は構成効果による減少と係数効果による増加が打ち消しあって生じている。2002年をreferenceにし、東ドイツを入れても結果は頑健。
| 2002 | 2007 | 2012 | 2017 | |
|---|---|---|---|---|
| Households With Children | ||||
| Change in Gini Compared to 1988 | 0.0362 | 0.0278 | 0.0167 | -0.0012 |
| (0.0188) | (0.0180) | (0.0145) | (0.0153) | |
| Composition Effect (Explained) | -0.0045 | -0.0200 | -0.0449*** | -0.0295*** |
| (0.0123) | (0.0133) | (0.0086) | (0.0087) | |
| Return Effect (Unexplained) | 0.0410* | 0.0653* | 0.0517*** | 0.0411** |
| (0.0198) | (0.0271) | (0.0146) | (0.0153) | |
| Observations | 2,929 | 2,372 | 4,982 | 4,251 |
| Observations, base year 1988 | 1,583 | 1,583 | 1,583 | 1,583 |
| All Households | ||||
| Change in Gini Compared to 1988 | -0.0121 | -0.0066 | -0.0220** | -0.0317*** |
| (0.0083) | (0.0092) | (0.0081) | (0.0078) | |
| Composition Effect (Explained) | -0.0083 | -0.0141*** | -0.0314*** | -0.0350*** |
| (0.0044) | (0.0038) | (0.0039) | (0.0043) | |
| Return Effect (Unexplained) | -0.0042 | 0.0069 | 0.0034 | -0.0002 |
| (0.0081) | (0.0093) | (0.0081) | (0.0078) | |
| Observations | 9,124 | 8,516 | 11,145 | 11,879 |
| Observations, base year 1988 | 4,334 | 4,334 | 4,334 | 4,334 |
全世帯も子どものいる世帯も、高齢化、学歴拡大、女性の労働市場参入が資産不平等の縮小に寄与し、移民と婚姻状態が不平等の拡大に寄与した。基本的に近年ほど各要素の寄与は大きくなっている(子どものいる世帯ではまちまちだが)。
結論
全世帯の横ばい傾向は、世帯タイプの違いや人口構造の変化といった動態によって隠されている。
人口学的な趨勢は重要ながらも各項目で大きく異なる仕方で資産不平等に作用する。