理論とは何かを学ぶための論文9報

Sociology
Theory
社会学における理論の位置付けと考え方
Author

新田真悟

Published

February 3, 2026

はじめに

社会学の学術論文を書くときには、つねに「理論的貢献」や理論にもとづく仮説導出が求められます1。理論は学術的営為の足腰ですから当然なのですが、その要求に比して理論とは何で、何をすることが理論的貢献なのか、何が理論にもとづく研究なのかははっきりしていない現状があります。もちろん、自身の分野における範となる論文を読むことで理論の扱い方を学んでいくのですが、必ずしも読むだけで模倣できるわけではないと思います。自分自身、より大きな認識枠組みから、範となる論文の理論の扱い方を説明されたい(「その論文は『○○だから』理論の扱い方が良い!」)と常々望んでいます。

その大きな認識枠組みを提供できるわけではないのですが、今回はその土台となるような論文を紹介します。ウェーバーやデュルケムほど大きくもなく、さりとてatheoreticalにはならない、丁度いい水準で理論を考えられる一助になれば幸いです。

全体像①:理論の類型

Abend, Gabriel. 2008. “The Meaning of ‘Theory’.” Sociological Theory 26(2):173–99. doi:10.1111/j.1467-9558.2008.00324.x.

「理論」という語が社会学でどのように使われているのか、その全体像を整理した論文です。具体的には、理論を①「変数間の関係を規定する普遍的な命題」、②「特定の社会現象に対する因果的説明」、③「解釈学的・意味論的な意味づけ」、④「古典研究(解釈・分析・批評)」、⑤「パラダイム・世界観」、⑥「規範的・政治的な記述(批判理論、フェミニスト理論、ポストコロニアル理論)」、⑦「メタ理論」に分類しています。この分類は相互排他的でなく別個に成立し得ること、理論が指しているものの同意がないまま理論について言及すると、コミュニケーションに困難が生じることなどを指摘しています。

この理論は見取り図としては非常に有効ですが、実証研究者として関心を持つのは基本的に②「特定の社会現象に対する因果的説明」だと思います。この因果的説明の内容や議論の水準がどの程度だと良い理論なのかを知りたいというのがこの記事の読者の想定でしょう。自分がどの理論を用いるのかではなく、自分が想定していた理論の外側を知るという意味でこの論文は役にたつと思っています。

全体像②:研究プロセス

Merton, Robert K. 1987. “Three Fragments From a Sociologist’s Notebooks: Establishing the Phenomenon, Specified Ignorance, and Strategic Research Materials.” Annual Review of Sociology 13(1):1–29. doi:10.1146/annurev.so.13.080187.000245.

理論それ自体の洞察を深める論文ではないのですが、科学の実践(すなわち、論文の執筆と学術誌への掲載)のパターンを論じています。①「社会現象の確立」:ある社会現象を説明・解釈する前に、まずその現象が実際に存在し、説明を要するほどの規則性を持っていることを証明する作業。②「特定的無知」:未だに分かっていないこと、未知の領域を特定する作業。③「戦略的研究材料」:研究するべき社会現象をアクセスしやすい形で示すため、難解な問題の調査や新しい問題の発見を可能にする具体的な研究対象、場所、出来事、です。

本論文はそれ自体とても好きなのでやや無理やり挿入しましたが、理論が何のために使われるのか、その宛先について含意があると考えています。①「社会現象の確立」であれば、なぜ説明を要するほどの規則性があるのかを示す目的で理論が使われるでしょうし、対象の選定としてもその説明枠組みとして理論が作用します。Abend(2008)が「理論とは何か」に答えるものであれば、Merton(1987)は「何のための理論か」に光を当ててくれるでしょう。

理論化①:思考道具

Swedberg, Richard. 2016. “Theorizing in Sociological Research: A New Perspective, a New Departure?” Annual Review of Sociology 43(1):1–18. doi:10.1146/annurev-soc-060116-053604.

理論は必ずしも導出できる仮説一覧を示した図鑑、すなわち静的な知識体系ではありません。実証研究の結果から反省され、修正・拡張・無効化・局所化される動的な生成過程です。Swedberg(2016)はこのような理論「化」のプロセスを理論と区別して考え、理論化を達成するための思考道具として①アブダクション、②抽象化、③類推とメタファーを提供しています。

個人的にはこの理論化こそが理論を理解する上で最も肝要な概念であると考えています。実証研究ではしばしば自分の研究の仮説を立てるために理論を持ってくるという、消費的な用法が見られます。しかしより重要なのは自分の研究結果が「理論にとって」どのような意味を持つのかということです。そのために必要なのは自分の研究結果それ自体をより抽象的な概念に昇華し、理論がうまく作動しない場面を突き止めたり、理論がよりはっきり現れるタイミングを同定したりする作業です。その必要性のみならず思考の枠組みも提供する点で非常に意義のある論文です。

理論化②:理論と古典

Anicker, Fabian. 2026. “The Art of Saying No: Hermeneutic Theorizing and the Force of Negation.” Sociological Theory. doi:10.1177/07352751251413221.

理論化の過程に欠くべからざるものがデータです。理論的に導出された経験的な仮説を支持したり、そこから考えうるメカニズムを抽象化したりして理論化は行われます。Anicker(2026)はこのデータ中心主義を批判し、古典ですでに論じられた理論の解釈から理論化を行うことを提案します。

既存理論の解釈による理論化を行うためにAnicker(2026)は2つのプロセスを提案しています。①既存理論を問い—答えという関係から最大限好意的に解釈する、②理論が食い違う現実から既存理論の「規定的否定」を行う、というプロセスです。実証研究者がこのプロセスを論文に落とし込むのは難しそうですが、古典を紋所として使う代わりに、具体的な仮説を導出する「中範囲の理論」的に用いるのは考えを広げる良い方法かもしれません。

理論のイメージ①:社会カテゴリ

Monk, Ellis P. 2022. “Inequality without Groups: Contemporary Theories of Categories, Intersectional Typicality, and the Disaggregation of Difference.” Sociological Theory 40(1):3–27. doi:10.1177/07352751221076863.

理論には具体的な調査項目に密接に結びついた概念・仮説を提供する中範囲の理論と、より抽象的でより社会全体を大きく描写するような(誇大)理論がありますが、個人的にはその中間があると考えています。それを抽象的には整理できていないのですが、Monk(2022)は誇大理論と中範囲の理論を橋渡しするような、適切に抽象的な理論を提供しており、ぼんやりと掴むためのガイドになります。

いわゆる「インターセクショナリティ」の理論ですが、それを「たんなるカテゴリの組み合わせではない」という批判にとどめることなく、どのように再検討・再構築するべきなのかを具体的に提示しています。社会カテゴリをnominal membershipとして捉える代わりに、カテゴリのcueや中心としてのpercieved typicalityといった概念を提供しています(この具体的な応用例としてHong(2025)2なども参照のこと)。「不平等」や「社会カテゴリ」は「教育格差」や「人種」についての理論よりも抽象度が高いため、理論のイメージがより膨らむのではないかと思います。

理論のイメージ②:ライフコース

Fasang, Anette Eva, Rob J. Gruijters, and Zachary Van Winkle. 2024. “The Life Course Boat: A Theoretical Framework for Analyzing Variation in Family Lives across Time, Place, and Social Location.” Journal of Marriage and Family. doi:10.1111/jomf.13012.

本論文はライフコース研究における理論枠組みを整理して提供したものです。ライフコース(あるいは時間的変化)はかなりなんでもありの理論的視角ですが、そこで扱われてきた概念を無難なやり方で整理しています。「無難な」というのは、自分自身ミクロ—メゾ—マクロという枠組みがあまり好きではないため、基底的に相容れない部分があるがゆえの表現です。

にもかかわらずこの論文は、理論とは何かを理解する上で重要は含意を提供しています。第一に、語の水準が理論として適切です。たとえば、社会構造がライフコースを規定する動力を「precondition」「reinforce」「counteract」「preclude」「alternation」という語で整理しています。たんに「影響する」「関連する」といったpassiveな表現ではなく、「土台となる」「強める/弱める」「無効化する」といったactiveな表現を使っています(このニュアンスは伝わりづらいかもしれません)。このようなactiveな表現は社会現象の説明をシャープにするものだと考えています。

第二に、実証例があります。理論の提示で実証例はかなり珍しく、自身の研究で何をいうと「理論的に説明した」ということになるのかの足がかりとなると思います。ツッコミどころはそれなりにあるのですが、イメージを掴むうえでは非常に好例です。

反・理論①:理論の複雑さ

Healy, Kieran. 2017. “Fuck Nuance.” Sociological Theory 35(2):118–27. doi:10.1177/0735275117709046.

なかなか刺激的なタイトルです。Swedberg(2016)の紹介で私は理論を「修正・拡張・無効化・局所化される動的な生成過程」と述べて(しまい)ましたが、それを批判する論文です。

Healy(2017)が述べる通り、理論とは個々の現象の細部を捨象して、抽象的で無骨(blunt)に、悪く言えば十把一絡げに社会を認識する知識体系です。Swedberg(2016)の紹介のときと私の言っていることが違いますが、直感的には理解できると思います。一つの理論ですべてが説明できるように無秩序に細分化したり射程を拡張したりすることは、むしろ理論の強みを放棄していると論じています。

とはいえ、個人的にはそうは思いません。Healy(2017)ではAbend(2008)の整理における①「変数間の関係を規定する普遍的な命題」として理論を捉えていると解釈しています。Abend(2008)ですでに整理された通り、②「特定の社会現象に対する因果的説明」とは区別されます。実証研究者が貢献したい理論が②であれば、そのニュアンスこそがむしろ社会現象を理解するための動力になると考えます。気持ちはわかるのですが、実証研究者として理論に貢献するうえでは一旦目を瞑っても良いと思います。偉くなってから取り組みましょう……。

反・理論②:理論と記述

Besbris, Max, and Shamus Khan. 2017. “Less Theory. More Description.” Sociological Theory 35(2):147–53. doi:10.1177/0735275117709776.

こちらは抄録(Abstract)がエキサイティングです。Healy(2017)同様、論文で理論的貢献を求めることを辞め、厳密に生成された発見の記述に徹するべきだと主張しています。既存の理論を便利に使ってしまうあまり、従来の正確性が失われている状態に警告を鳴らしています。記述を基礎とし、そのうえに理論を置くピラミッド型の学問へと再構築するべきだと主張しています。

Besbris and Khan(2017)も言いたいことは分かるのですが、ピラミッド型のメタファーからも失敗しているように、理論の重要性を暗に再強化してしまっています。そういう学問だからこそ皆、記述による下支えではなく理論化や理論的貢献を目指して研究しているのだと思います。個人的に以上二つの論文は評価していませんが、翻って理論(化)のイメージが着くのだと思います。

理論と事実

Hirschman, Daniel. 2016. “Stylized Facts in the Social Sciences.” Sociological Science 3:604–26. doi:10.15195/v3.a26.

実証研究者は必ずしも理論的動機だけでなく、現実から研究を始めることがあると思います(例「なぜ米国で所得格差が拡大しているのか?」)。この現実は学術的にstylized factsと呼ばれます。このようなstylized factsの扱い方を論じた論文です。

stylized factsは当然真空から無作為に生まれるわけではなく、規範的な価値判断と密接に関わります。所得格差が重要な問題として認知され、議論をしたくなるからこそ、研究するべき対象になるということです。事実から理論的説明を検討する作業はSwedberg(2016)が論じるアブダクションとも類似しています。つい我々が出発したくなる手近な「事実」にどう向き合えば良いのかを示してくれる論文だと思います。

おわりに

以上の論文を読み、トップジャーナルの理論枠組みを読み直すと、個人的には理論「化」の重要性が明確になりました。日本の実証研究では理論を「消費」する、すなわち理論を仮説導出に紐づけて手堅く知見を積み上げるための手段として用いているきらいがしばしば見られます。それももちろん重要なのですが、実証研究の結果を踏まえて抽象的な規則性への言及やactiveな修正(体系化・局所化・階層化など)をすることで理論にも貢献することがさらに重要だと考えています。もちろん、言うは易しで、自分自身上手くできているわけではありませんが。

もう一つは、社会科学の基本中の基本ですが、結果から議論を積み上げないことです。結果を見てから仮説を考えるスタイルは疑わしい研究実践であるだけでなく、理論的にほとんど意味のある貢献をしません。理論的動機から研究を出発させることこそが、結果が仮説と食い違っても、自信を持って理論的貢献を果たすための道程と言えます(cf. Anicker 2026)。良い理論化ライフを!

Footnotes

  1. ここで理論とは実証研究で用いられる社会学的な理論であり、批判理論のような社会理論とは区別します。社会理論については扱いません。実証研究をしている人を想定した、中範囲の理論について理論とします。↩︎

  2. Hong, Chen-Shuo. 2025. “Networks Beyond Categories: A Computational Approach to Examining Gender Homophily.” Sociological Methods & Research. doi:10.1177/00491241251321152.↩︎